乳糖果糖オリゴ糖ってどんなもの?⑧ ~ 乳糖不耐症状の軽減 ヒト試験 ~

2024.09.16 知識情報

乳糖果糖オリゴ糖ってどんなもの?⑧ ~ 乳糖不耐症状の軽減 ヒト試験 ~

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乳糖果糖オリゴ糖がどんなものかをご紹介するシリーズの8回目。今回は乳糖不耐症状への影響について行われたヒト試験をご紹介いたします。



乳糖果糖オリゴ糖の摂取による乳糖不耐症状の変化 ヒト試験


腸内環境を整えることのメリットはいくつもあり、さまざまな研究が行われています。排便回数の増加や免疫機能の改善、また、ストレスの低減や睡眠への影響などの研究もあります。

そのような中で今回は奥和之らが行ったヒト試験をご紹介します。


まず試験結果を簡単にまとめます。その後でヒト試験の詳細を記載いたします。ページの最後には他のヒト試験へのリンクも置きますのでよろしければそちらも見て下さいね。


乳糖不耐症状とは牛乳などを飲んだ際に、含まれる乳糖を消化吸収できないことで、下痢やおなかがゴロゴロする症状を引き起こすものです。詳しくは過去の記事「乳糖ってどんなもの?」もご参考に。




<ヒト試験、結果のまとめ>


【 結 果 】

・腹部症状調査 : 腹痛が60分後、120分後、180分後で有意に軽減


・呼気水素ガス濃度(※)の増加量: 31.23ppm → 9.73ppm に減少


・血糖値 : 変化なし



女性10名に対するヒト試験の結果、乳糖果糖オリゴ糖を1週間摂ることで、摂らない場合と比べて、腹部症状のアンケートや呼気水素ガスの発生減少により、乳糖を摂ったときの乳糖不耐症状が低減する結果となりました。


※ なぜ呼気水素ガスを測定するの?
乳糖は小腸で酵素「ラクターゼ」により分解され吸収されます。乳糖不耐症の人はこのラクターゼの分泌が少ないことで、乳糖が分解しきれず大腸に到達、そこで乳糖を栄養に取り込み水素ガスを発生させる細菌によって食べられて水素ガスが発生します。
そのため、乳糖を摂取後、時間の経過とともに口から吐いた息の水素ガス含有量が増加するかを測ることで、乳糖の分解できなかった程度が分かります。これは乳糖不耐症の診断にも使われている検査方法です。




・腹痛など乳糖不耐症状が減った理由


まず、血糖値が変化していないことは、乳糖果糖オリゴ糖により乳糖を分解する酵素「ラクターゼ」の分泌が増えて乳糖が分解され、血管内に吸収されたのではないことを表しています。


また、乳糖果糖オリゴ糖を継続して摂ることは、大腸内でビフィズス菌を増やし腸内細菌叢が改善することが分かっています。


そのため、乳糖果糖オリゴ糖を摂取したことで腸内細菌叢を含む大腸内の腸内環境が改善して、乳糖を食べて水素ガスを出す細菌が減少し、乳糖不耐症状が低減したと考えられます。



腸内環境を整えておくと、牛乳を飲んだ時、含まれる乳糖を消化吸収して栄養にできないとしても、不快な乳糖不耐症の症状を軽減できるのです。


乳糖果糖オリゴ糖って8_挿入画像1_コップにミルクを注いでいる画像



ここから試験内容の詳細を記載いたします。


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【試験名】


「乳糖不耐症状に及ぼす4G-β-D-Galactosylsucrose(ラクトスクロース(※))摂取の影響」

(※)「ラクトスクロース」=乳糖果糖オリゴ糖



【実験方法】


1. 糖質


乳糖果糖オリゴ糖は、乳糖(ラクトース)とショ糖(スクロース)を材料として、Arthrobacter sp.K-1の生産するβ一フラクトフラノシダーゼの糖転移反応により酵素的に合成される。本試験に使用した高純度乳糖果糖オリゴ糖試料(乳糖果糖オリゴ糖-98)は塩水港精糖㈱より供与された。乳糖はラクトース1水和物(試薬特級、和光純薬㈱製)を使用した。


2. 被験者


被験者は、鳥取大学医療技術短期大学部全学科学生367名に対し、牛乳、乳製品摂取による腹部症状有無に関するアンケート調査を行い、乳糖不耐による自覚症状を訴えるもの48名のうち協力者10名(女性、年齢19―21歳)である。なお、本試験は「ヘルシンキ宣言」の精神を尊守して、被験者には事前に試験内容を十分に説明し、文書によるinformedconsentを提出したうえで行った。試験を医師の立会いのもとに実施し、採血も医師により行った。試験期間中は、牛乳、乳製品の摂取を控えさせた。


3. 乳糖負荷試験


被験者は、試験前夜9時以降絶食とした。翌朝9時に乳糖20gを300mLの温水に溶解させ飲用させた。乳糖負荷前および負荷30分後に採血し、血糖値を測定した。また乳糖負荷前、負荷120分後まで経時的に呼気を採取し、呼気中の水素ガス濃度を測定した。さらに乳糖負荷後の症状(腹痛、腹鳴、腹部膨満感、下痢、嘔吐)についてアンケート調査を行った。


乳糖負荷後の翌日より、乳糖果糖オリゴ糖(LS-98)を1日当り5gを2-3回に分け、毎食後100mLの温水に溶解して、7日間連続摂取させた。乳糖果糖オリゴ糖摂取後、同様に乳糖負荷試験を行った。
血糖値は、採血後3,000rpm×15分間の遠心分離により血清を採取し、グルコースオキシダーゼ酵素法によるグルコース測定キツト(グルコースBテストワコー、和光純薬㈱)にて測定した。


呼気中の水素ガス濃度は、Tsujiら.の方法に準じて行った。呼気の採取は200mL容のアルミラミネート袋(厚さ20μrn)に直接吹き込み、シールして密封
した。呼気中の水素ガス濃度をガスクロマトグラフィー(GC)により定量した。以下にGC条件を示した。


GC装置:ガスクロマトグラムG-3000型(㈱日立製作所)、カラム:ステンレス製長さ2m× 内径3mm、カラム充填剤:ActiveCarbon60-80mesh(ジーエルサイエンス㈱)、カラム温度:90℃、キャリアーガス:ヘリウム(純度99.999%)流速40mL/min、検出器:光電離検出器(印加電圧750mV(0.12mA))試料注入量:呼気ガス1mL。


乳糖負荷後の症状に関する調査項目は、腹痛、腹鳴、腹部膨満感、下痢および嘔吐の有無について記録用紙に記入させた。各症状について、「なし、ほとんどない:1」、「少しあり:2」、「かなりある:3」、「強い:4」の4段階に分け評価した。


4. 統計処理


データをすべて平均値± 標準誤差で示した。データを1way repeated-measure ANOVAにより分散分析し、次いで乳糖負荷後の血糖値、呼気中水素ガス濃度の変化は、乳糖果糖オリゴ糖摂取前後の対応のあるt検定で、アンケート調査はWillcoxonの符号付順位和検定で解析を行った。
P<0.05で有意とした。すべての統計処理をStatView3.0(SAS Institute Inc., Cary (NC),USA)を用いて行った。



【実験結果および考察】


乳糖負荷後の呼気水素ガス濃度の経時変化をFigure1に示した。乳糖負荷後呼気水素ガス濃度は、乳糖果糖オリゴ糖摂取前、摂取後ともに、乳糖負荷180分後をピークに上昇した。また乳糖果糖オリゴ糖摂取後では、摂取前に比べ、乳糖負荷後の呼気水素ガス濃度が低く、乳糖負荷120分後(p<0.05)、180分後(p<0.01)および240分後(p<0.05)では有意に低値を示した。


呼気水素ガス試験による乳糖不耐症者の診断では、12.5―50gの乳糖を摂取後、6時間内に呼気水素ガス濃度が、乳糖摂取前に比べ20ppm以上上昇した被験者を乳糖不耐症者と定義している。呼気水素ガス増加量を、乳糖負荷後の呼気水素ガス濃度の値から負荷前の値を差し引いて求めたところ、乳糖果糖オリゴ糖摂取前の乳糖負荷による呼気水素ガス増加量が20ppm以上を示した被験者が10例中6例認められた。この6例の呼気水素ガス増加量は、乳糖果糖オリゴ糖摂取前の乳糖負荷後の31.23±4.63ppmから、乳糖果糖オリゴ糖摂取後の乳糖負荷では、9.73±2.88ppmと有意に低値を示した(p<0.01)。一方、乳糖果糖オリゴ糖摂取前の乳糖負荷による呼気水素ガス増加量が20ppm未満を示した被験者4例では、乳糖果糖オリゴ糖摂取前の乳糖負荷後の8.85±3.44ppmから、乳糖果糖オリゴ糖摂取後の乳糖負荷では、7.70±3.62ppmと差がなかった。


乳糖負荷後の血糖値は、乳糖果糖オリゴ糖摂取前の乳糖負荷前89.2±9.5mg/dLに対し乳糖負荷30分後では92.6±9.4mg/dLと変化は認められなかった。また別途試験において、乳糖不耐症状を示さない健常者に対して乳糖負荷試験を行ったところ、乳糖負荷前の血糖値85.3±7.8mg/dLに対し乳糖負荷30分後では105.8±9.4mg/dLと増加しており、本被験者が乳糖不耐であると示唆された。乳糖果糖オリゴ糖摂取後の血糖値も、乳糖負荷前の98.7±11.5mg/dLに対し、乳糖負荷30分後では102.6±10.3mg/dLと変化はなかった。乳糖果糖オリゴ糖摂取前後の乳糖負荷前の血糖値にも差はなかった。


呼気中への水素ガスの排泄は、摂取した乳糖が小腸で完全に消化吸収されずに、結腸に移行し、腸内細菌により発酵・資化されたことを示す。腸内細菌のうち、Bacteroides、Clostridiumおよび大腸菌などは酸生成とともに水素ガスやメタンガスを発生するが、BifidobacteriumやLactobacillusは、酢酸、乳酸をおもな発酵産物とし、ほとんどガスを発生しない。健常成人では、乳糖果糖オリゴ糖1日1-2g摂取でBifidobacteriumが増加、Bacteroides、Clostridiumが減少するなど腸内環境改善効果が認められている。またわれわれは、ラットを用いた試験において、乳糖果糖オリゴ糖摂取(7日間)がラット小腸のラクターゼ(β-ガラクトシダーゼ)活性に影響を示さないことを確認している(データ未発表)。乳糖果糖オリゴ糖摂取による乳糖負荷後の呼気水素ガスの低下は、乳糖負荷後の血糖値が変化しなかったように、小腸ラクターゼ活性が上昇して結腸内に移行する乳糖量が減少したためではなく、乳糖果糖オリゴ糖摂取により腸内細菌叢を含む腸内環境が変わり、結腸内に移行した乳糖を資化して水素ガスを産生する腸内細菌が減少したためと考えられる。


乳糖負荷後の下痢、腹部症状について検討したところ、乳糖負荷による下痢の発生および嘔吐は、乳糖果糖オリゴ糖摂取前、乳糖果糖オリゴ糖摂取後いずれもすべて被験者において認められなかった。乳糖負荷後の腹部症状では、Figure 2(省略)に示すように、腹痛が、乳糖果糖オリゴ糖摂取前に比べ乳糖果糖オリゴ糖摂取により、乳糖負荷60分後(p<0.05)、120分後(p<0.05)、180分後(p<0.05)で有意に軽減された。さらに、腹痛、腹鳴、腹部膨満感いずれの症状にも乳糖果糖オリゴ糖摂取前の乳糖負荷において「程度4:強い」を訴える例が認められたが、乳糖果糖オリゴ糖摂取後の乳糖負荷では認められず、乳糖不耐症状の軽減に乳糖果糖オリゴ糖摂取が有効であることがわかった。


Montes et al.は、乳糖不耐症幼児にLactobacillus acidophilusを接種した牛乳を与え、飲用後の腹部症状、呼気中への水素ガス排泄量が著しく減少することを報告している。村尾らも、乳酸菌中のβ-ガラクトシダーゼが、消化管内でも作用し、乳糖の分解を促進するとしている。一方、Jiang et al.はBifidobacterium longumを含有する非発酵乳摂取により、下痢や腹痛、腹鳴などの腹部症状が軽減されることを確認している。このように、乳糖不耐症者の症状改善には、BifidobacteriumやLactobacillusなど有用菌の摂取が効果的である。乳糖代謝に及ぼす腸内細菌叢と関連については興味がもたれる。


本試験より、乳糖果糖オリゴ糖摂取による腸内細菌叢の改善が、乳糖負荷後の呼気水素ガスの低下、腹部症状の軽減に寄与していると考えられる。乳糖果糖オリゴ糖摂取による乳糖不耐症者の腸内細菌叢、腸内環境の変化、糞便を用いた乳糖の発酵試験を現在検討中である。


本試験に際して深い理解をもって試験に協力していただいた被験者の方々に深謝いたします。


(奥 和之ら (2002) 日本栄養・食糧学会誌、55(6):353-356)


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今回は、「乳糖果糖オリゴ糖ってどんなもの?」シリーズの8回目、乳糖不耐症状への影響についてのヒト試験をご紹介いたしました。


これまで、乳糖果糖オリゴ糖の摂取による排便回数・量・便性の変化やカルシウムの吸収促進などのヒト試験もまとめています。よければ下のリンクバナーからみてくださいね。



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