砂糖には、甘さだけでなく高い親水性やその他の性質によって食品をおいしくする効果がさまざまにあります。それら砂糖のはたらきを味や香り、食感など美味しさの要素ごとに前編、中編、後編の3回にわたり紹介いたします。
後編の今回は見た目を美しく、「かたち」へのはたらきと、品質をキープ、「保存性」へのはたらきです。メレンゲの泡立ちを安定させたり、食品のやわらかさを保ったり、細菌の増殖を抑えたり、甘いだけじゃない砂糖のはたらきをご紹介いたします。
卵白を泡立ててつくるメレンゲはタンパク質が膜のように気泡を包み、形づくられます。このとき砂糖を加えると卵白の水分が砂糖となじみ、水とタンパク質が分離するのを防ぎます。すると気泡の安定性が高まり、メレンゲがこわれにくくなってキメ細かい泡立ちを保つことができます。このように砂糖にはかたちをキープするはたらきがあります。
詳しくはこちらの記事(「砂糖の力でメレンゲの泡立ちをキープ」)をご参考に。
また砂糖は、砂糖自身が美味しそうな見た目をつくることも得意です。
アイシングとはケーキなどの表面に塗る砂糖を主な成分とする白色の砂糖衣のことです。ドーナッツの上掛けなどに使われる柔らかいウォーターアイシングや、卵白も加えてしっかり固めてクッキーなどを飾るロイヤルアイシングがあります。色をつけたロイヤルアイシングを使えば、手作りクッキーが手軽にワンランクアップ、華やかになりますね。
詳しくはこちらの記事(「アイシングで美しくおいしく飾る」)をご参考に。
純白のウエディングケーキを飾ることも多い純白のシュガークラフト。
砂糖と卵白などを原料に花やフリル、刺繍模様などいろいろな細工がほどこされます。繊細な飾りが付くことで、真っ白なケーキが特別な時の特別なケーキになります。
詳しくはこちらの記事(「ウエディングケーキのはじまり」)をご参考に。
室町時代に外国から伝わったとされ、日本で独自に進化した有平糖。
茶の湯の世界でも使われるお菓子です。
江戸時代の最高峰の職人が作った、花を模した有平糖には本物と見間違えるほどの精巧さから、蝶がとまったという逸話が残されています。
詳しくはこちらの記事(「有平糖(ありへいとう) ~日本で進化した元祖「食べる宝石」~」)をご参考に。
なぜ甘いジャムはすぐに腐らずに保存食になるのでしょうか。
砂糖には保水性があります。つまり砂糖は水とつながりやすい性質があります。砂糖をたくさん加えると食べ物の中の水分の多くが砂糖とつながった結合水(※)になり、細菌が活動に使える自由水(※)の割合が減るのです。
そのため防腐性が高まり食べ物の日持ちがよくなります。
※ 結合水、自由水について詳しくはこちらの記事(「なぜジャムは長もちする? 砂糖の防腐性」)をご参考に。
炊けたごはんは、それだけで十分おいしいものです。しかし冷めるとかたくなってしまいます。一方、にぎりずしやちらしずしに使う「すし飯」は冷めてもかたくならずに、そのおいしさを維持しています。
砂糖がこの違いに関わっています。
お米などに含まれるでんぷんは水と一緒に加熱するとでんぷんの中に水分子が入り込み、ねばりが出てやわらかくなります。その後、温度が下がるにつれ、入り込んでいた水分子が抜けて、でんぷん同士で結びつき、かたくなります。この現象を「老化」といいます。
この時、砂糖が含まれていると砂糖のもつ保水性により、でんぷん内部の水分を砂糖がかかえ、抜けにくくするため、やわらかい状態が保たれるのです。
詳しくはこちらの記事(「すし飯がずっとしっとり でんぷんの老化を防ぐ砂糖の力」)をご参考に。
油脂は空気中の酸素や高温、光などにより油脂の分子に酸素分子が結合して酸化がおこり、油っぽい臭いが強くなったり、色が濃くなったりするなど品質が低下し、風味も悪くなります。
クッキーでもこの油脂の酸化がおこります。焼く前は生地の中の水分が部分的にバリアとなって油分が直接空気に触れることが少なく、酸化しにくい状態です。しかし焼くことで多くの水分が蒸発し、油分が空気に触れて徐々に酸化してしまいます。
このとき砂糖の、水分と結びつきやすい性質が威力を発揮します。
砂糖があることでバターの水分が砂糖と結びつき生地に水分が残り、油分が空気に触れることを減らすため、酸化が抑えられ美味しさが保たれます。
詳しくはこちらの記事(「油脂の酸化を抑えて美味しさを保つ砂糖」)をご参考に。
今回はメレンゲの泡立ちを安定させたり、冷めてもすし飯をやわらかいままにしたり、細菌の増殖を抑えたりするなど、料理の「かたち」と「保存性」への砂糖のはたらきをまとめて紹介いたしました。
今回で全3回にわたった「食品の美味しさへの「砂糖のはたらき」は終了となります。
前編で「味・色・香り」、中編で「食感」へのはたらきをまとめています。それらも下のリンクから見てくださいね。
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