みなさんは「神経伝達物質」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。「ドーパミン」や「セロトニン」といった名前はご存じかもしれません。これらは神経細胞の末端から放出され、次の神経細胞を刺激する物質で、神経の伝達に欠かせないものです。
「ドーパミン」は、脳を興奮させ、快く感じる神経伝達物質で、やる気を起こし、集中を高める前向きな気持ちを引き起こします。
また、「ノルアドレナリン」という、心や身体にストレスを感じたときに出て、目の前の恐怖や不安に対処するため身体を活動状態にする神経伝達物質もあります。
そしてこれら2つをコントロールし、脳をリラックスさせて穏やかな気持ちにする神経伝達物質が「セロトニン」で、これは学習能力や記憶力にも重要な役割を担っています。
この興奮や緊張をコントロールする「セロトニン」の生成に、砂糖が関わっています。
セロトニンは脳内で「トリプトファン」というアミノ酸から合成されます。
このトリプトファンは食べたタンパク質が分解されてできる、さまざまなアミノ酸のうちの一つですので、肉などを食べればトリプトファンとなり、それが脳内に入ってセロトニンが作られます。
しかしじつは、タンパク質が分解されてできるアミノ酸にはロイシンやリジンなどさまざまなものがあり、それらも脳内に取り込まれるため、それらと競合し、トリプトファンが取り込まれにくいのです。
このとき、砂糖を食べて、消化吸収されたブドウ糖が血管内に入ってくると、ブドウ糖を細胞に取り込むためにインスリンが出てきます。インスリンにより、ロイシンなどのアミノ酸も筋肉脂肪などに取り込まれ、血液中のアミノ酸が減るため、トリプトファンが脳内に取り込まれやすくなります。
このようにして、トリプトファンのもととなるタンパク質と砂糖を同時に摂取することで、セロトニンが合成されやすくなるのです。
感情がコントロールできない状態や、ストレスがかかる場面では、ドーパミンやノルアドレナリンの量が増加しますが、感情をつかさどる前頭葉では、セロトニンが精神を落ち着かせるように働きかけます。
そのため、情緒の安定にはセロトニンを欠乏させないようにすることが大事だと考えられています。
また、以前のコラム「砂糖と味覚」では、甘みは脳内の心地よさを感じる部分を刺激し、β―エンドルフィンというホルモンを分泌させることを紹介しました。
甘い味そのものも、栄養素としてのブドウ糖も、どちらも幸せやリラックスを生み、心の健康と深い結びつきがあるのですね。
【参考文献・資料】
・『砂糖の知識 食育のためのお砂糖テキスト』(公益社団法人全国学校栄養士協議会監修)
・『砂糖百科』高田明和 他 監修(社団法人糖業協会)
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