もち米を加工した「道明寺粉」から作られる生地であずき餡を包み、椿の葉で上下をはさんだ和菓子です。
道明寺粉のつぶつぶ、もちもち食感と中の餡の甘さがおいしい素朴な和菓子です。和菓子屋さんによっては生地に香りや色がついているものもあります。
椿餅は今から1000年以上前、平安時代の『源氏物語』にも登場する古くからある和菓子。
中国からの輸入品の唐菓子でなく、日本で作られて現在も食べられている和菓子としては、一番古くからあったものの一つと考えられています。
「つぎつぎの殿上人(てんじょうびと)は、簀の子(すのこ)に円座めして、・・・ 椿もちい、梨・柑子やうのものども・・・」(源氏物語、若菜上)とあり、蹴鞠(けまり)を楽しんだ後の慰労の席で甘い椿餅を菓子として食べていたようです。
ところで、甘いと書きましたが1000年前の日本では砂糖はまだ非常に貴重でほとんどお菓子には使われていませんでした。
では何が使われていたのでしょうか。
平安時代に食べられていた甘味料は水飴と甘葛煎(あまずらせん※)で、椿餅には今はなくなってしまった「甘葛煎」が使われていたと考えられています。
※甘葛煎:ツル性植物の樹液を煮詰めて作られる甘味料。源氏物語と同時代の『枕草子』にもかき氷に甘葛煎をかけて食べる場面があります。
水飴については、以前のコラム『水飴ってどんなもの?』をご参考に。
また、当時は中に餡が入っておらず、道明寺粉から作られる生地に甘葛煎で甘みをつけ、丁子(ちょうじ、香辛料)で香りがつけられていたものだったようです。
今の椿餅以上に上品な和菓子だったのですね。
今回は椿餅をご紹介しました。
世界最古の長編小説とも言われる「源氏物語」でやんごとなき方々が食べていた「椿餅」。
今度ぜひ、1000年という長い時間と平安時代の貴族の暮らしを想像しながら日本最古の和菓子「椿餅」を召し上がってみてはいかがでしょうか。
【参考文献・資料】
・『和菓子の歴史』青木直美 著(ちくま学芸文庫)
・『辞典 和菓子の世界』中山圭子著(岩波書店)
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