桜餅

2024.01.22 知識情報

桜餅

あずき餡和菓子歴史江戸時代

春を感じる桜餅。江戸時代に作られ改良が重ねられた和菓子です。今回は桜餅をご紹介します。



桜餅とは


あずき餡を桜色の生地で包み、外側に塩漬けの桜の葉を巻いた春を連想させる和菓子です。

また桜餅は、同じ名前で関東と関西で材料が違う和菓子でもあります。

関東の桜餅は、「小麦粉の生地」であずき餡を包んでいます。 一方、京都、大阪など関西で食べられる桜餅は、もち米からつくられる「道明寺粉の生地」であずき餡が包まれています。 上の写真の手前が関東風、奥が関西風です。

どちらの生地も食紅などで桜色に色付けされ、中にあずき餡が入り、外側が塩漬けの桜の葉で巻かれているところは一緒です。 巻かれる桜の葉は、柏餅の葉と違い、食べられます。



桜餅のはじまり


桜餅は江戸時代に江戸でつくり出されました。
桜並木がそばにあるお寺の門番の人が、辺りの桜の葉を活用してお菓子として売り出したのが始まりと言われています。

最初は新粉(しんこ)の生地でつくられ、その後、くず粉の生地になって大人気のお菓子となりました。一店舗で年間38万個も売れた記録があります。
その後、いろいろなお店でつくられるようになり、全国へも広がり、現在は関東が小麦粉、関西が道明寺粉でつくられています。

さまざまな生地ができてきましたので、文末に和菓子に使われる生地の材料・作り方を一覧にまとめました。ご参考に。

江戸時代の江戸の町の人口が参勤交代の武士たちも含めて110~140万人と言われていますので、一店舗で年間38万個売れた桜餅はいかに人々に食べられていたかが分かると思います。

最初は新粉の生地でしたので、桜餅より前からあった新粉の生地の「柏餅」を柏の葉から桜の葉に変えて、名前を変えただけのようにも見えます。しかし「桜餅」には柏餅にはない美味しさへの工夫がされています。



販売するためのお菓子


先ほど比較に出した「柏餅」は武家や商家の「家」で作られることが多いお菓子でした。
しかし「桜餅」は武士に限らず一般庶民向けに「お店」で販売するために作られました。

特に桜の花見の時期の販売量はものすごかったようですが、その時期に桜の葉はありません。

ご存じのように桜は冬を越え春になると、葉がない枝からいきなり花が咲き、そして花が散った後に葉が出て、秋に紅葉し落葉します。

前の年に紅葉して落ちる前の葉を塩漬けにして保存して使っていたのです。
春の季節感を前面に出しながらも、桜の葉を塩漬けすることで一年中つくれる商品にして、一年を通して売られていました。

また、この塩漬けが、香り、味の面でも非常に良い影響を与えています。通年で販売することより、最初は美味しさを追求して塩漬けにしたのかもしれません。



桜の葉は塩漬けすることで香りがアップ


桜の葉をそのまま嗅いでもほとんど香りはしません。塩漬けされることで桜の葉の細胞の中に閉じ込められていたクマリンという香り成分が細胞の外に出て、甘い独特な香りがするようになるのです。

それが生地に移り、巻いてある桜の葉自体を食べなくても桜の香りが楽しめるようになっています。

また、味の面でも葉から生地に移った塩味が、中のあずき餡の甘さと相まって、甘じょっぱい美味しさとなっています。



江戸時代は和菓子の発展期でした


先ほどの柏餅やおはぎ、饅頭、羊羹などそれまでの和菓子はシンプルな色合いのものが多かったのですが、桜餅は桜色に色付けされた生地が上品で、目からもお菓子を食べること自体を楽しめるようになっています。

また、生地が何度か変わっているように、発売当時からはさまざまな改良が加えられています。

桜餅に限らず、江戸時代は一般庶民向けの和菓子が新たに作られ、また改良されて広まっていった時代だったのです。

平安時代以降、砂糖も和菓子も世の中にありましたが、主に貴族や武士など特権階級の人々のもので、庶民が和菓子を、特に自然な甘さの砂糖を使った和菓子を食べることができるようになったのが江戸時代でした。

砂糖が国内で生産できるようになったのも要因ですが、大きな戦争がなく世の中が比較的安定していて、人々が落着いて暮らせたことでさまざまな和菓子が発展したのだと思われます。

今度ぜひ、工夫を重ね、おいしい和菓子を作り出した和菓子職人たちのことを思い、春を感じる桜餅を味わってみてはいかがでしょうか。


なお、関西圏での桜餅は、江戸での人気からつくられるようになりました。しかし昔からの和菓子の本場、京都があるからでしょうか、「源氏物語(平安時代)」にも登場している道明寺粉からできた伝統的な和菓子「椿餅」の影響で、作り手にも食べる人たちにも道明寺粉の生地が受け入れやすかったのではないか、とも言われています。



和菓子の生地に使われる材料の原料・作り方一覧


お饅頭など餡を包んだり、おはぎのように逆に餡で包まれたり、お団子やくず餅などそのものが主役で蜜をかけて食べられたり、ベースとなる生地に使われる材料を一覧にまとめました。

原料 作り方等 使われる和菓子
新粉 うるち米 うるち米を水洗い後、粉にしたもの 柏餅、団子、草餅
道明寺粉 もち米 蒸したもち米を乾燥し、粗挽きして大きさをそろえたもの 桜餅(関西)、椿餅
白玉粉 もち米 もち米を水挽き(水に1日ほど浸けた後、粉に)したもの 白玉だんご、求肥
餅粉 もち米 もち米を水洗い後、そのまま粉にしたもの 大福餅、求肥
小麦粉 小麦 小麦を粉にしてふすま(皮)を取り除いたもの(グルテンの含有量の多い「強力粉」から「薄力粉」まで分類されている) 桜餅(関東)、饅頭
くず粉 葛(くず) 葛の根の澱粉を乾燥させた後、粉にしたもの くず餅
きな粉 大豆 大豆を煎った後、粉にしたもの すはま、きな粉棒、(きな粉餅)
片栗粉 じゃがいも(もともとはユリ科の片栗) じゃがいもの澱粉を粉にしたもの (打ち粉、手粉)



【参考文献・資料】

・『たべもの史話』鈴木晋一著(平凡社)
・『和菓子の歴史』青木直己著(ちくま学芸文庫)
・『兎園小説』滝沢解 等 編(とえんしょうせつ、1825年)
・『うちの郷土料理 大阪府桜餅』(農水省HP)



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