あの丸くふくらんだかわいい形のサクサクふわっとしたシュー生地、そして中の甘いクリームがハーモニーを奏でるシュークリーム。今回はシュークリームのお話です。
シュークリームは、小麦粉、卵、バター、水などを混ぜて焼いた生地の中に、クリームをつめた洋菓子です。
「シュークリーム」の名前はフランス語でキャベツを意味する「シュー(chou)」に英語の「クリーム」をあわせた和製英語。 フランス語では「シュー・ア・ラ・クレーム(chou a la creme)」、英語では「クリームパフ(cream puff)」といいます。
シュークリームを特徴づけているあの丸くふくらんだ形ですが、生地を作るときに、パンをふっくらさせるイースト菌もホットケーキをふくらませるベーキングパウダーも入れません。
それではなぜふっくら丸くふくらむのでしょう?
簡単に言うと、焼く前の生地に水分が多く含まれ、それが焼いたときに生地の中で蒸発して水蒸気となり、生地をふくらませます。
ほぼ同じ材料のクッキーはふくらみません。どこが違うのでしょうか。作り方から詳しく秘密を解き明かしましょう。
シュークリームの生地は他のお菓子のようにボウルなどで材料を混ぜるのではなく、まず鍋に水、バター、塩などを入れ、火に掛けます。沸騰直前まで沸かした後に火を止め、その鍋に小麦粉を入れ混ぜます。その後、卵も入れ、さらに混ぜていきます。
この温度が高い状態で混ぜることで、小麦粉のでんぷんが水分を含んだ粘りのある生地になります。この状態を科学用語では「でんぷんの糊化(=アルファ化)」といい、身近なところではお米を炊いてご飯になった状態です。でんぷんに水分を加えて加熱することで、でんぷん構造に水分子が入り込むのです。
(でんぷんの糊化につきましては過去のコラム 「すし飯がずっとしっとり でんぷんの老化を防ぐ砂糖の力」もご参考に)
この生地をオーブンで焼くと、中に含まれる水分が蒸発し水蒸気となって周りの生地をふくらませます。そして卵のタンパク質が加熱により、そのふくらんだ状態で生地をかためていき、最終的に水分が抜けてふくらんだ状態で成形されます。
このようにして、イースト菌やベーキングパウダーもなしに、まるまるとふくらんだ生地ができるのです。
1533年、イタリアのフィレンツェの名家、メディチ家のカトリーヌ姫がフランスのアンリ2世のもとへ嫁ぎます。そのときに専属の製菓職人だったポプランによって元になったお菓子がフランスに伝わり、その後1760年になって現在のようなシュー生地が完成したといわれています。
日本には、幕末に来日し明治維新の後に横浜で洋菓子店を営んだフランス人のサミュエル・ピエール氏によって紹介されました。
その後、他の洋菓子店でもシュークリームは販売されるようになりますが、一般家庭で食べられるようになったのは冷蔵庫が普及しはじめる昭和30年代以降でした。冷蔵保存ができるようになり、それ以降、現在まで続く大人気の洋菓子の一つとなりました。
今回はシュークリームのお話でした。
ふんわりとして少し塩気のあるシュー生地と甘いクリームのハーモニーのシュークリーム。今度見かけられたら小麦粉のでんぷんをアルファ化した後に焼いてふんわりした生地をつくる先人の知恵を思いながら召し上がってみてはいかがでしょうか。
【参考文献・資料】
『お菓子の由来物語』 猫井 登 著 幻冬舎
『科学でわかるお菓子の「なぜ?」』 中山 弘典・木村 万紀子 共著(柴田書店)
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