甘くて、薄いのにもっちり食感のフランス発祥のクレープ。
そば粉でできた素朴なガレットから乳製品や砂糖が入り上品に進化。
あのナポレオンもクレープの逸話を残していました。今回はクレープのお話しです。
クレープはガレットから進化
クレープは小麦粉に牛乳と卵を混ぜ合わせ、その生地を薄く焼いたものに生クリーム、フルーツ、チョコレートなどをはさみ、巻いて食べられるお菓子です。また、お肉や卵料理などを入れて食事として食べられたりもします。
「クレープ」はフランス、ブルターニュ地方のそば粉でできた「ガレット」から進化しました。
昔、痩せた土地が多く作物が育ちにくかったブルターニュ地方では、多くの農地でそばが栽培されていました。
ある時、そば粉で作ったお粥を食べていたところ、焼けた石の上にお粥を落としてしまいました。液状のお粥が石の上で薄く広がり焼けて、こんがり美味しく、これがガレットの始まりといわれています。
そのためフランス語で小石を意味するgalet(ガレ)から、ガレットの名前が付けられたようです。
原料がそば粉から小麦粉にかわり誕生した「クレープ」
17世紀、ブルターニュ地方でガレットを食べたルイ13世の王妃アンヌは、その味をとても気に入って宮廷料理に取り入れるようになりました。
ガレットは宮廷料理にもなりメジャーな料理となるなかで改良も加えられます。そば粉から小麦粉で作られるようになり、さらには牛乳や卵、バター、そして当時まだ貴重だった砂糖も加えられ、甘みのある生地に変わった段階で、「クレープ」と呼ばれるようになりました。
これは、小麦粉で作るようになり生地が薄くなり、焼いた時、表面に上品な細かなしわが寄ったことから、ちりめんを意味する「クレープ」と名付けられたと思われます。(クレープはラテン語の「波をうつ」が語源といわれています)
クレープ専門店が原宿に登場
日本国内でクレープといえば、原宿が思い浮かびませんか?
日本では1970年代に原宿で発売され人気となります。カフェで座ってお皿で給仕されるのではなく、クレープ生地で生クリームやフルーツなど甘い具を巻き、その外側を紙で巻いて手にもって歩きながら食べられる形態で発売され、それも流行った理由の一つと思われます。
観光地での食べ歩きの、はしりでした。
当時、原宿には次々とクレープ店がオープンし、競うようにそれぞれのお店で生クリームやチョコレート、カットされたフルーツが綺麗にデコレーションされていきます。日本でクレープはさらに華やかに進化していったのでした。
紙で巻いて食べるスタイルは食べ歩きにぴったりで、現在ではこの華やかにデコレーションされた日本風スタイルのクレープはニューヨークなどでも人気とのことです。
香ばしさにも砂糖が一役
クレープは見た目も華やかながら、販売店の前では香ばしいにおいにも誘われます。
この香りには、バニラやバターなど材料に含まれる香りの成分と一緒に砂糖のメイラード反応が一役買っています。
メイラード反応とは糖とアミノ酸と加熱の組み合わせで、焼き色と一緒にさまざまな香りを発生させる反応のことです。
焼いたパンの香りやステーキの香りなど食欲を刺激する複雑な香りを生成するのです。(詳しくは過去の記事 『クッキーやパンのおいしさの秘密 カラメル化とメイラード反応』をみて下さいね)
フランスでは2月2日にクレープを食べる風習があります
日本の恵方巻ではないですが、フランスでは2月2日にクレープを食べる風習があります。
クリスマスから40日後にあたるこの日は、 シャンドルール(Chandeleur、聖燭祭(せいしょくさい))といって「聖母マリアお清めの日」にあたり、昔、信者がろうそくをもって行進していました。
ろうそくの光がクレープの丸い形と似ているからとか、巡礼者に教皇がクレープを振舞ったから、など理由は諸説あるようですが、現在では家族や友人たちと2月2日にクレープを食べるようになりました。
クレープ占い
またクレープは「占い」にも用いられており、クレープを焼くとき左手にコインを握ったまま、右手だけでフライパンの上の生地を上手にひっくり返せたら幸せな1年を過ごせるという言い伝えがあります。
この占いでは、ナポレオンが1812年に挑戦し、なんと失敗してしまいます。
その年に行ったモスクワ遠征は10月に撤退、遠征は失敗しており、クレープ占いは当たるのでは?という逸話も残されています。
今回は甘くてもっちり食感のクレープのお話しでした。
ご自宅でも季節のフルーツを入れて幸せなおやつタイムを楽しんでみてはいかがでしょうか。その際、勇気のある方はクレープ占いもぜひ。
【参考文献・資料】
『お菓子の由来物語』 猫井登 著 幻冬舎
『マギー キッチンサイエンス』Harold McGee著 共立出版
フランス観光開発機構サイト「シャンドルールとは」
https://www.france.fr/ja/news/article/2102_chandeleur
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