チョコレートの美味しさの秘密(前編)

2023.09.11 知識情報

チョコレートの美味しさの秘密(前編)

カカオチョコレート

みんな大好きチョコレート。甘くてちょっと苦くて複雑な香り。
じつは大昔から食べられていた食べ物でした。今回は前編としてチョコレートが辿ってきた歴史編です。



甘くないチョコレートなんて! でも三千年以上の歴史がありました


ご存知でしょうか?人類が口にしていた最初のチョコレートは苦い飲み物でした。カカオの実をすりつぶし、泡立てて飲んでいたようです。

そのままの味以外にも唐辛子など香辛料を入れて、辛くしたものも飲まれていました。


最初にチョコレートを飲んでいたのは紀元前1500年頃、現在のメキシコや中央アメリカ北西部の地域で栄えたオルメカ文明の人たちだと考えられています。飲んでいる壁画や遺跡などは残っていませんが、使っていた言葉に「カカオ」があり、その言語が後に続く文明に引き継がれているためそう考えられています。


チョコレート_挿入画像1_遺跡の画像.jpg


その後もチョコレートはその地域で飲み続けられ、絵文字を使っていたマヤ文明では儀式の場面にカカオの実が何度も登場しています。神聖な食べ物としてチョコレートが人間の血と象徴的に結び付けられてもいました。


そして、スペインがアメリカ大陸へ進出した16世紀、当時栄えていたアステカ帝国でもカカオの実から作られた苦い飲み物が王侯貴族を中心に滋養強壮や疲労回復、不老長寿の薬として飲まれていました。皇帝は毎日50杯ものチョコレートを飲んでいたとスペインの記録に残っています。


チョコレート_挿入画像2_カカオやチョコレートドリンクの画像.jpg


ちなみに、コーヒーが初めて飲まれたのが一説によると9世紀、今からおよそ1200年前ですから、それよりもずっと古くからチョコレートは人類に飲まれていたようです。



ヨーロッパに渡って2回の進化。まずは「砂糖との出会い」


チョコレートは苦い飲み物時代をアメリカ大陸で3000年程の間すごし、16世紀にアメリカ大陸へ進出したスペイン人によってヨーロッパにやってきます。


そこで第一弾の進化が起こります。
「砂糖との出会い」です。


遠いアメリカ大陸からの貴重なチョコレート飲料でしたが、そのままではヨーロッパの人の口に合わなかったようで、そこに当時まだ非常に貴重だった砂糖を入れて飲みだされます。
砂糖を入れてみると、滋養強壮の薬としての面が強かったと思われるチョコレート飲料が、苦みや複雑なカカオの風味も甘みと一緒に味わえる、美味しい嗜好品になったのでした。


チョコレート_挿入画像3_ココアの画像.jpg


こうして、チョコレートが現代の味につながる甘くて少し苦いものに変わりました。



そして「固形化」 で大人気に


第二弾の進化「固形化」はイギリスで起こります。

まずは、オランダでチョコレート飲料をもっと飲みやすくしようと、原料のカカオを搾ったものから油脂分を分離させ改良します。そうして現在のココアのもとになる脂肪分の少ないサラっとした口当たりの飲み物になるのですが、そのとき取り除かれた油脂分がチョコレートに固形化をもたらします。


1847年のイギリスで、取り除かれた方の油脂分の「カカオバター」をつなぎに使って「カカオ」と「砂糖」をまとめて固形にしたのでした。これが現在の固形のチョコレートの始まりです。


チョコレート_挿入画像4_カカオバターの画像.jpg


このカカオの油脂分の「カカオバター」には、他ではあまり見られない特別な性質がありました。その特別な性質は、比較的寒いヨーロッパの気候で外気温では固形で、口の中の体温ですぐに溶けていく絶妙な融解性です。


ここからチョコレートの大躍進が始まります。


固形で持ち運びができ、販売、保管も常温で可能。そのまま食べられて口の中でなめらかに溶けていく。そして、なめらかな口どけと共に、甘みや豊かな香り、少しの苦味がハーモニーを奏でて広がる。

チョコレートは大人から子供まで大人気となりました。


チョコレート_挿入画像5_板チョコレートの画像.jpg"


また当時のイギリスは産業革命の後で蒸気機関の利用による工場での大量生産も可能でした。そのため、この2回の進化でとてもポピュラーなお菓子になっていったのでした。



今回は「チョコレートの美味しさの秘密」の(前編)として誕生から2回の進化を中心にお話いたしました。(後編)はチョコレートの美味しさを決める複雑な作り方を中心にお話いたします。
そこでは砂糖に甘さだけじゃないチョコレートを美味しくする役割がありました。次回もお楽しみに。



【参考文献】
『チョコレートの歴史』ソフィー・D・コウ/マイケル・D・コウ 著(河出書房新社)
『チョコレートはなぜ美味しいのか』上野 聡 著(集英社新書)
『科学でわかるお菓子の「なぜ?」』辻製菓専門学校(柴田書店)